「忍足様、ご所望の書物をお持ちいたしました」
「あぁ、そこに置いといて。後で見るわ」
「はい、分かりました」
側仕えの女房が去っていく衣擦れの音を聞きながら、忍足は次から次へと書物のページを捲っている。
何をしているのかというと、蓬莱の玉の枝についての文献を探しているのである。
「あった、これやな。…なになに…」
―蓬莱の玉の枝…蓬莱の島に生えているという、金・銀・玉で出来た枝のこと―
「何の参考にもならん…っていうか、蓬莱の島なんか何処にあんねん」
思わず突っ込みをしたい衝動に駆られたが、何とか抑え、入手方法を考える。
しかし、場所が分からないので、対処の仕様が無い。
「あー、このままやと、他の奴らに先越されてまうなぁ…。どないしょう…」
考えても考えても、いい考えは浮かばない。
仕方がないので、気分転換に外に出ることにした。
外でぶらぶらと歩いていると、金銀細工を売っている者と出会った。
「これ、あんたが作っとるん?」
「ええ。私にはこれくらいしか出来ませんから」
「なぁ、俺にもちょっと教えてくれへん?」
「え?これをですか?」
「何や面白そうやと思てな。ええやろ?」
「え、えぇ。まぁ、いいですけど」
細工師に少し教えてもらっただけで、すぐに作れるようになった忍足に、細工師は驚いて言った。
「本当に、初めてなんですか!?」
「ほんまに初めてやで…って、これや!」
「はい?」
一人で納得して頷いている忍足に、細工師は不思議そうな視線を送った。
しかし、その視線は忍足には全く届いていなかった。
「なぁ、この材料、売ってくれへん?」
「え、でも…」
「心配せんでも、値切ったりせぇへんよ」
「しかしですね…」
「これくらいあったら、足りるやろ?」
「!!これは多すぎですよって、ちょっと〜」
お釣りを返そうとしたが、その時既に忍足は遥か先へ行ってしまっていた。
「忍足様、お帰りなさいませ」
「明日からしばらく部屋に籠もるから、内裏には物忌みや言うといて」
「承知いたしました」
それから5日間、忍足は部屋に籠もっていた。
何をしていたのかというと、蓬莱の玉の枝を自分で作ろうとしていたのである。
「まぁ、こんなもんやろ」
枝は金、根は銀、実は玉で出来ている、蓬莱の玉の枝(のようなもの)が出来上がった。
忍足は出来上がった玉の枝を持って、姫の屋敷へと向かった。
「姫、忍足の君がお会いしたいと…」
「わかったわ。お通しして」
「ほんまにお久しゅう。相変わらず、べっぴんさんやなぁ」
「お褒め頂き、光栄です」
「俺がここに来た理由、わかっとるやんな?」
「えぇ。蓬莱の玉の枝が手に入ったんですね」
「ちょっと、ちゃうけどな」
忍足は箱の蓋を取り、姫に見せた。
「すごく綺麗な枝ですね」
そっと箱から取り出して見ている姫に、忍足は言った。
「ほんまは取りに行きたかったんやけど、場所が分からんくてな。それ、俺が作ったんや」
「え?忍足の君がお作りになったんですか?」
「本物ちゃうけど、堪忍な」
「いいえ、とても嬉しいです。わざわざ作ってくださるなんて…」
「姫さんのためやったら、何でもするで?」
忍足の言葉に姫はやわらかく微笑み、忍足も微笑み返した。
「俺は、合格点もらえるんやろか?」
「忍足の君は満点ですよ」
「そりゃ、おおきに」
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あとがき
玉の枝を作るのは同じでも、人に作らせるのと自分で作るのは違うよね。
でも、作り物であることに変わりないけどさ。
こんなのでいいのだろうか…。
ま、良いってことで。
2004/05/06 白木辰水