「仏の御石の鉢…か…」
自分の屋敷に戻ってからずっと、リョーマは悩んでいた。
どのくらい悩んでいるかというと、“一体、仏の御石の鉢って何なんだー!!”と、 大声で叫びたくなるくらいである。
本当に叫びたいとは思っていても、実際に叫んだとしたら、ただの馬鹿である。
「そんなの…分かるわけないじゃん…」
不貞腐れて床の上でゴロゴロと転がっていると、ドタドタと大きな足音が近づいてきた。
「よぉ、青少年。昼間っからゴロゴロしてるなんて、いいご身分だねぇ」
「…親父。出家したんなら、寺に籠もってれば?」
「おぃおぃ、実の親を邪険にする気か?せっかく一人息子の様子を見に来てやったっていうのに」
「別に来なくていい。それに、今はそれどころじゃないから」
「姫のことか?」
「!!」
なぜ、知っているのかというような顔をしているリョーマを見て、南次郎はニヤニヤと笑った。
「やっぱりねぇ。姫に求婚した五人の貴公子の中に小さい奴がいるって聞いてな。
多分お前のことだろうと思って、見に来てやったんだよ」
「親父…仏の御石の鉢って、何か分かる?」
「あぁ、家にあるじゃねぇか」
「え?どこに?」
「あれだ」
南次郎が指差した先には、リョーマの愛猫・カルピンの餌皿があった。
その餌皿は、リョーマがカルピンを飼い始めたときに、南次郎が家の蔵から 引っ張り出してきたものである。
「もしかして…カルピンの餌皿が仏の御石の鉢…!?」
「うんにゃ。でも、あれが一番古めかしくて、それっぽいだろ?洗って持ってけ」
「でもこれ、カルピンの…」
「いいじゃねぇか。他に方法もないことだしよ」
「…カルピン……」
「ほぁらっ!」
自分のお気に入りの絵皿を持っていかれるのを知ってか、カルピンは皿の前に立ちはだかった。
そんなカルピンの様子を辛そうな顔で見ていたリョーマだが、意を決して餌皿を奪い取った。
「ごめんな、カルピン」
「ほぁらーっ!」
リョーマは餌皿を手に、後ろを振り返らずに走り去っていった。
途中、賀茂川で良く洗ってから、布に包み、姫の屋敷に向かった。
「姫、越前の君がお越しです」
「お通しして」
「これ…持ってきたんだけど」
リョーマは仏の御石の鉢、(カルピンの餌皿)を差し出した。
姫は餌皿を手に取ると、ゆっくりと眺め始めた。
「結構、使い込んでありますね」
「それは…その…人手に渡っていたから…」
「ほぁらっ」
「!!カルピン!」
急いで捕まえようとしたリョーマの腕は、虚しく空を切った。
カルピンはリョーマの腕をすり抜け、姫の前に座り込んだ。
「ほぁら〜」
「この鉢、君の?」
「ほぁら〜」
カルピンと姫のやり取りを見て、居た堪れなくなったリョーマは、
決まり悪そうに下を向いてしまった。
「ごめん…」
「え?」
「それが仏の御石の鉢だなんて、嘘なんだ。…だから…その…本当に、ごめん」
さっと立ち上がって御簾をくぐろうとしているリョーマに、姫が声を掛ける。
「越前の君」
「……」
「貴方は正直な方ですね」
「正直なんかじゃない…俺は嘘をついたんだから」
「嘘をついた事を認める勇気…素晴らしいことだと思いますよ」
軽く衣擦れの音を立てて、姫はリョーマの側まで歩いていった。
「私は、貴方のそんな真っ直ぐなところが好きですよ」
姫の言葉に返事をすることなく、リョーマは御簾をくぐった。
そして、御簾の向こうにいる姫に声を掛けた。
「また、来るから」
「はい。お待ちいたしております」
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あとがき
仏の御石の鉢を、猫の餌皿で代用するのはいくらなんでも無理だよねぇ。
書いたの私だけどさ。
南次郎も変な知恵を出しちゃダメだよ…リョーマは結構純粋なんだから。
それにしても難しいなぁ…。
竹取物語を題材にしたのは間違いだったかな…。
2004/05/06 白木辰水