<不二編>




姫から、燕の子安貝を持ってきてほしいと言われた不二は、都から少し離れた所にある 田園で、ぼんやりと考え事をしていた。



「燕の子安貝、と来たか。難題だな」



田植えを終えた後の緑色の田んぼ。

ぽつぽつと立っている家々。

忙しく飛び交う燕たち。



「やっぱりこういう場合は、彼らに聞くのが一番だよね」



そう呟いて、不二は空に向かって腕を伸ばした。

すると、一羽の燕が舞い降りてきて、不二の腕に止まった。



「忙しいときにごめんね、呼び止めちゃって」

『いえいえ、不二様にはいつもお世話になってますから』



彼、不二周助は、なんと動物と会話することが出来るのだ。

“不二周助は人間じゃない”と、宮中ではもっぱらの噂だが、本人の前で噂するような奴はいない。

うっかりと口を滑らせて、制裁を食らった者はいるのだそうだが。



『で、何の御用でしょうか』

「うん。君は、燕の子安貝って知ってるかい?」

『ええ、知っています。子安貝というのは安産のお守りのことなのですよ』

「へぇ、そうなんだ。その子安貝って、今、手に入るのかな?」

『はい、ありますよ。持ってきましょうか?』

「ぜひ、頼むよ」

『それでは、少しお待ちくださいね』



燕はさっと飛び立つと、近くの民家の軒下の巣へと入っていった。

そしてすぐに、何かを咥えて戻ってきた。



『お待たせいたしました。これです』



燕は不二の肩に乗ると、咥えていた物を渡した。

受け取ってみるとそれは、桃色の貝殻に糸を通したものだった。



「これが、子安貝?」

『はい。宜しければ、どうぞお持ちください』

「いいのかい?大切な物なんじゃ…」

『毎年作り変えるものですから、お気になさらずに』

「じゃあ、ありがたく貰っておくよ。本当にありがとう」

『それでは、私はこれで失礼します。…頑張ってくださいね、不二様』



不二は飛び去った燕を見送りながら、思わず苦笑した。



「なんだ、知ってたのか」



“鳥たちの間でも噂になるほどとは、思ってなかったな”と思いながら、不二は姫の屋敷へ 続く道を急いだ。



「姫、不二の君がお越しです」

「お通ししてください」

「はい」



姫の部屋に通された不二は、姫の前に座るとにっこりと笑った。



「お久しぶりです、姫。お元気そうで何よりです」

「不二の君も、お元気そうで何よりですね」

「今日は、約束の品をお目にかけるために参りました」



不二はさっき燕から貰った子安貝を、姫に渡す。

姫は、子安貝を受け取ると、嬉しそうに目を細めた。



「よく見つかりましたね。今の時期は手に入りにくいものですのに」

「ちょっとした伝手があってね。…これで、僕の愛情は分かってもらえたかな?」

「面白い方ですね。これから、どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね」





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あとがき



不二といえば燕!

なので迷うことなく、燕の子安貝を探してきてもらうことに。

本当の竹取物語だと、石上麻呂足(いそのかみのまろたり)さんは、子安貝なんて見つからない上に、

高い所から落ちた時のショックで死んじゃうんですよね。

何とも哀れな。

それに比べて不二は、燕とお話できちゃいますからね。

天才に不可能なし?

2004/04/06 白木辰水




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