貴方の為になら
僕は何だってできる
+はぴねす+
今朝も朝早くから仕事に付く好青年は、ごぞんじ三番隊副隊長吉良イヅル。
早朝というのに、欠伸の一つも見せずに、既にいくつもの提出書類を書き終えていた。
「…こほ」
が、欠伸こそしないものの、咳はする。
「まいったなぁ…」
よくよく見ると、今朝の彼の鼻の色は赤。
少しでもハンカチを手放すと鼻水が垂れて来る。
それこそ、拭いても拭いてもとまらない。
一体、どこからそんなに溢れてくるんだろう?
意味の無い疑問を頭に思い浮かべながら、イヅルはまたチンと、鼻をかむ。
今朝からコレで何度目だ。
溜息をつきつつも、ハンカチを机の上に乗せ、次の書類へと目を通す。
何枚目かの書類をめくった時、一枚の紙が零れ落ち、ふわり、
ふわりと少しばかり中を舞うと其の侭床の上に落ちた。
…しまった。
自分自身に呆れながらも、仕方が無いと立ち上がり、紙を拾い上げる。
その動作も今朝から既に、三度目。いい加減、どうにかならないものだろうか…。
つい、そんな言葉が口から出かける。こんな愚痴をこぼさずに飲み込んでしまえるのは
やはり、根が真面目だからであろうか?それとも、ただ、疲れているからかもしれない。
イヅルは其の侭席へと戻り、腰を落ち着かせるなり、拾い上げたばかりの書類に目を通す。
「…何だ、コレ」
何だ、コレ。彼には珍しいこの一言を零させた、すばらしい書類はアンケートのようなもの。
問1:昨夜は良く眠れましたか?
問2:夢見は如何でしたか?
と、こんな感じ。
何かの悪戯では?そうも思えるが、誰が副隊長相手にこんな悪戯をするであろう?
ソレも、重要書類の間にはさんで置くであろうか?
やはりこの書類には何か意味があるだろう。
例えば、この回答で、回答者の心の内が解るとか…。
そんな考えが彼の頭の中では廻っているが、その書類。
解答欄こそは有るものの、名前の記入口が無い。
その事に気づきもしないイヅルは、これまた真面目にその書類に取り組んでしまう。
真面目で、天然。だから隊員達から人気が絶えないのかもしれない。
問1:昨夜は良く眠れましたか?
答:はい。
問2:夢見は如何でしたか?
答:好きな人が夢に現れたので、幸せでした。
問3:今朝は何を食べましたか?
答:朝は食事は取りません。
次々と解答欄を埋めてゆく。
それも、真剣に。時折悩みながら、時折笑みを浮かべながら。楽しそうに。
その様子をこっそり覗き見していた、狐こと、三番隊隊長市丸ギンは、
満足気に笑みを浮かべながら、また、天井裏からこっそりと、その様子を眺めつづけた。
問の数は全部で50問。
すらすらと、次々に回答してゆくイヅルの手が止まったのは、48問目。
問48:今、恋をしていますか?
単純なその問に、答えが出ていないわけじゃない。けれど、問題は49問目。
問49:はいと答えた方のみ、答えてください。
その恋は難しいですか?叶いそうですか?
もし、よろしければ、相手のお名前をご記入ください。
恋をしていますか?
難しい事じゃない。恋ならしている。
ならば、はいと答えればすむところ。問題は、相手だ。
相手が誰だか。コレもハッキリしている。
けれど、その相手を、その相手の名前を書いていいものだろうか?
たしかに、「よろしければ」と書いてあるから、記入が絶対な訳ではない。
けれど、アンケート形式のコレ。
素直に答えなければ意味をなさないのではないだろうか?
そんな些細なことに、イヅルは悩んでいた。
悩みながらも、48番に書いた答えは、はい。
けれど、やはり49番で筆が止まる。書きたい。答えたい。けれど、答えられない。
無責任。
誰かに無責任だといわれるわけじゃない。
けれど、イヅルは、自分自身に、無責任と、声に出して罵声を浴びせていた。