そう言えば、いつからだったんだろう
+届けるつもりの無い手紙+
見上げれば晴天。
雲ひとつ見当たらないその空は、
まるで、スカイブルーの絵の具を満遍なく塗りたくったかのような
其の空はどうしてか、少しばかり鬱陶しさを与えていた。
いつもとさして、代わり映えしない穏やかな一日。
なのに、空の、その青が嫌いなのか、鳶やカラスは姿を見せず、
天気がいい割には何故か雀さえも見当たらない。
もしかしたら、天気がいいのは今だけであって、
後々雲行きが怪しくなるのかもしれない。
九番隊副隊長こと、檜佐木修兵はそんな姿があまり似合わないながらも
ぼーと空を眺めながら行くあてもなく、ふらふらと歩んでいた。
せっかくの非番の日だというのに、行く当ても無いのが、
ほんの少しばかり悲しくなってくるかもしれない。
けれど、だからといって1日部屋の中でつぶすのは聊か時間の無駄遣いのような気もする。
なので、彼はふらふらと意味も無く歩いている訳なのだが、
そうして意味も無くふらふらしている事自体が時間の無駄遣いなんだとは気付かないのだろうか?
はたから見れば変質者のようにしか見えない。
空を見ながらふらふらとあっちへ行ったりこっちへ行ったりしてる其の姿をふと、
目の端に止めた阿散井 恋次は「修兵さんっ」タイミングよく、
彼が前方の石に躓くほんの少し前に声をかける。
笑みが浮かぶ。
檜佐木 修兵と言えば、整った顔立ちをしているものの、
射るかのような鋭い目、顔の刺青に右目の三本傷が更に怖さと厳しさに拍車をかけ、
それにくわえ副隊長のポジションを持っている為、中々近づく輩はいない。
そんな、怖いイメージを持っている彼が自分が声をかけなかったら躓いて、
危うくこける所だったと思うと、どうにもこらえきれずに笑みがこぼれる。
「こんな所で何してんすか?」
笑みを満面に近づいてくる後輩の姿を見ながら
「いや、別に、なにも」
そっけなく答える。
『こんな所で何してんすか』
私服なのに非番だとは気付かないんだろうか、この馬鹿は。
そこにふらふらとあても無さそうに歩いてるのだから、
何もしていない事にも気付かないんだろうか?
いや、暇をつぶしてるとは言えるかもしれない。
阿散井 恋次
六番隊副隊長。其の若さで隊長のポジションをもつ、将来有望な青年だ。
しかし、真っ赤な髪と、挑発するかのような身体の多くを占める刺青は
上にはあまり良い印象を与えていない。
それでも、未だに副隊長の位置にいるのだから、やはり、実力があるのだろう。
それと、意図しないやんわりとした態度が好印象なのかもしれない。
「そーなんすか?そーいや、修平さん!この辺で子犬見かけませんでした?
迷い犬なんすけど、ちょーど、この位の…」
そう言いながら、恋次は両手を間に少しの空間を作り始めた。
時々少し悩みながら、このくらいか、
もう少し大きかったかと一人でブツブツ言っている其の仕種が可愛くて、修兵はつい
「あー、其の犬なら食われてたぞ」
からかいたくなってしまう。
悪気は無いのだけれども、からかいたい。否、興味を引きたい。
この青年は余りにも多くの人に愛されているから、
少しでも興味を引くにはからかうしか手段が無い。
自分はこの青年を幸せにしてやる術を持たないから。
この少年を捕らえる事に恐怖を覚えるから。
「え、マジっすか?!」
案の定、普通信じないであろう返答に
目を丸くしながら飛び付くかのように聞き返してくる。
てか、そんな嘘ってどうなんすか!!と、直ぐにはっとして、冗談だと気付くものの、
其の一つ一つの仕種が愛しくて仕方が無くなる。
幼い子供のようにくるくると表情を変える其の青年の仕種の一つ一つが、微笑ましくて、
其の犬なら母犬らしき犬と一緒にいたと、見てもいないのに安心させたくて、つい、嘘をつく。
それでも、後で悲しい思いをさせない為に結局は見つかるまで懸命に探す羽目になるのだが。
そういえばいつから自分はこんなに他人に心を開くようになったのだろう?