一番落ち着いて  




一番安心できる





「よぉ」
中へ入り、障子をパタンと閉める。
目の前に広がるのは、殺風景な部屋。
窓際で煙管を咥えながら、仕事机に肘を突いている男。
嗅ぎ慣れた、少し独特な、紫煙の香りに、畳の匂い。

風が吹き込む。
いっしょに、少し湿っぽい香りも。


ふと、チラリ。
窓の外を見ると、案の定ぱらぱらと、小雨が振り出していた。



1歩 2歩 …



ゆっくりとその男のもとへと近づく。
じっと、顔を見ながら、ゆっくりと。

ああ…また、中途半端に仕事投げ出してる。

ふと、目に入った机の上の書類。
放り出されたペン。

また、笑みが零れそうになる。

浦原喜助は口に咥えていた煙管を、灰皿の上へ置くと、ゆっくりと、
両腕を一護の方へ向けて伸ばす。
それに引かれるかのように、一護は浦原の前へ来ると、ペタンと膝を尽き、
浦原の首に腕を回すと、其の侭抱きついた。


「黒崎さん、お帰りなさい。」


片腕を背中に、もう片方の手を一護の頭に当てながら、耳元で囁かれる、浦原の声。




お帰りなさい




時々、この男の口から発せられるこの言葉。
別にココが自分の家だというわけじゃない。

なのに、いらっしゃいじゃなくて、お帰りなさい。


毎度、ぎゅっと、抱き締められてから囁かれるその言葉、
囁くその声が酷く心地よくて、酷く落ち着いて。




ああ、暖かい。




何で、男の俺が、男にこんな風に抱き締められて、
気持ちよくならなきゃなんねーんだよ。
最初のうちはそんな気持ちが胸の内を占めていた。
店を訪ねるたびに、黒崎さん、黒崎さん。
抱きつかんばかりの勢いに身の危険を感じた事もしばしば。
なのに、何故か、何時しかそれが、酷く心地よくなって。



雨の日に抱き締められるのが好きだ。




浦原喜助と言う男。

飄々としていて、どこか掴み難い。

扱いにくい。

変な格好。

変質者。


何処をどうとっても、好印象なんかもてないであろうその男を好きになった理由は、
その顔の奥に隠された本当を垣間見たせいかも知れない。


そんな事、この男は欠片も知らないんだろうな。


「ただいま」

素直に返事を返せるようになったのも、ココ最近の事。
少しずつ少しずつ、隠された本当の顔を見せてくれるようになったその男。




「一護さん、大好きですよ」



「アタシの事、好きですか?」



「自信…ないんですよね」



「え…やっ…な、なんなんスか、もぅ」



思い出せば出すほど、笑みが零れてくる。
自信満々のように見えて(実際、自信満々なのだが)一護の事になると、
一気に自信を無くす。


慌てたり、拗ねたり、真っ赤になったり。
なのに時々、酷く真面目で、酷く、優しくて。


扱いにくい、けれど素直な、子供だそうだ。奴からいえば。
そんな子供に振り回されて、浦原ばかりが好きだと伝えて、
俺は全くといっていいほどに、その気持ちを露にしない。
だから、時々、自信がなくなるんだと。


「ただいま」


もう一度、繰り返して言うその言葉。
表情は見えないものの、雰囲気からして、多分、微笑んでいるであろう浦原。
その大きな掌は今、自分を抱き締めながら、頭を撫ぜていて。

無償にそれが心地良い。


「今日は、雨になりましたね…」
ひんやりとしながらも、暖かなその声は、シンとした室内に響く。
まるで、明かりでもつけたかのように。

響いて、留まって、暖めて。

「夕食、食べていきませんか?」
響く、その声に安心する。
雨が降っているのなんて、気にもとめないほどに、ほっとする。


一護はぎゅっと、先ほどよりも力を込めて浦原に抱きつく。



離したくない。


離して欲しくない。




まだ もう少し




「考えとく…」

小生意気なその声は、少しばかり甘えを含め、溶け込むかのように染み込む






一番 安心できて 



優しくて



暖かくて



大好きで




ああ  なんて




愛しいんだろう



大好きな人の声は安心するよなぁ…と。 それが家族だろうが、友達だろうが、恋人だろうが、なんであろうと。 心地よいものだよなぁ、と。 結果、出来たものは何じゃコラ。 まあ、個人的にはこういうの好きですけどね。 一護は甘えさせる事をすこしやめて、自分が甘える立場になったほうがいーよ、というお話。 back?
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